こたえなんていらないさ

舞台オタクの観劇感想その他もろもろブログです。

宝塚花組「巡礼の年~リスト・フェレンツ、魂の彷徨~」初回観劇の感想(6月5日マチネ・宝塚大劇場)

幕開けからの2公演目、6月5日・日曜のマチネで花組マイ初日を迎えて来ました in 宝塚大劇場ー!

大ポスター、大好き!(いきなりめっちゃ頭の悪い文章を……笑)

まずはお芝居の感想のみで1記事更新します!

著名な作曲家でありピアニストであるフランツ・リストの生涯をとりあげる本作。
貴族の開催するサロンのアイドル的存在、超絶技巧のピアノの腕前の持ち主として著名な彼が、その人生の中で追い求めたものは何だったのか。
リストと彼を取り巻く恋人や友人たちとの関わりを通し、その光と影を緻密に描き出した作品です。

人生の複雑性を丹念に織り上げた名作

と、感じております!今回のお芝居!
ちょっと思い出しても、胸がぎゅっとなるような、不意に涙が零れそうになるような、そんな瞬間に満ちている作品でした。
演出の緩急の付け方がとても効いていて、生田先生の狙った通りの世界が舞台上にしっかりと立ち現れているのではないかな?と。
前半のパリの社交界の華やかさ・賑やかさが溢れる場面では、振り切って「派手である」ことに集中した、面白さの溢れた演出が繰り出されます。
演奏を始めそうで始めず、鍵盤から指を離しては悩ましげに髪をかきあげるリストの美貌に「……あぁ~~!」とたまらずにため息を漏らすパリの貴婦人たちの様子は、
あまりにも客席の私たちの気持ちとリンクしすぎているのでつい笑ってしまいますし、
いざリストが演奏を始めた!と思ったら、トップスターの歌と共にまさかのゲーミング仕様で虹色に光りだすピアノ……嘘でしょそんなのズルい!?wwになって、あれには爆笑してしまいました。。だって、光りながらぐるぐる回るピアノ……!?笑
「彼の汗のしずくを持って帰りたい!」みたいな歌のときは、れいちゃんリストから溢れる汗がキラキラ特大ビジューになって具現化してるし、振り切り方が最高すぎた!笑
その後、パリを出て駆け落ちしたリストとマリーが真っ白い衣装で森の中を駆け回るところは、ベッタベタの甘々な70年代少女漫画とおぼしき世界観で、もはやバカップルと呼んでも差し支えないような雰囲気に仕上がっていたりして、
笑ってしまうところ・わかりやすくキュンキュンしてしまうところは、明確にバーン!と眩しいまでの陽のオーラをまとって提示されているなと思いました。


そして、だからこそ引き立つ、人生の「影」の部分。
神童と呼ばれ親に望まれるままハンガリーを離れるも、パリ音楽院に入学できなかったリストの過去。
リストと巡り合い運命を共にできると信じたはずが、離された手はそのままに、どんどんと遠ざかっていく彼を遠くから見つめることしかできなくなるマリー。
誰よりも「野心」を通じて理解しあった相手が躊躇なく名声を捨てたことを受け入れられず、リストを焚きつけて表舞台に引き戻すジョルジュ。
音楽を愛し、親友として友を案じる中で、己の命の灯火が尽きていく運命を変えられないショパン


邂逅と別れ、理解と断絶。
そこにあるのは単純な正解ではなく、ただ思うようにならない、人生の真実。
きらびやかな成功も、運命の人との愛の交歓も、天賦の才を持つ友への嫉妬も、自由を希求する魂も、
そのどれもがフランツ・リストという人物が生き抜く上で、確かに存在した人生の一部だったのだと。
何が間違いで正しかったのか、そんなことを考えてもそれに意味などなくて……リストはただ、「生きる」ことに誠実に、必死だったのだと、そう思いました。

日々を生き抜いたその先に。血の通った人間であるフランツ・リスト

れいちゃん演じるリストは、とにかくどこまでも人間臭い存在でした。
人々から称賛を浴びることを欲し、誰よりも高い位置に立つことを目指し、実際にその才をもって名声を意のままにする様子。
周囲が求める”フランツ・リスト”を熱心に提供する一方で、己に深く穿たれていた空洞に気づいた瞬間、一気に全てを投げ出してしまう極端さ。
巡り合った真の理解者と信じる女性と、歓びのままに心を通わせる夢のような日々。
忘れていた野心に火がつき、一度離れたはずの社交界に舞い戻った途端、そこで収めた成功により再び権力と虚飾に溢れた世界に引き寄せられていく業。
激動の時代を越え、波打ち際に静かに佇むような穏やかさをもって、かつて愛しあった人と再び時を共にした瞬間にこみ上げる、その万感。


そのひとつひとつが、リストが「生きた人間」であるからこそ生み出される、嘘のない感情とその帰結であり、
れいちゃんのお芝居を見ていて、リストはどうしてそんな行動を取るのか?と腑に落ちないような部分がまったくなく、
ただひたすら、ひりつくような生の実在を感じました。
人間性が出来ているとは言い難いからこそ、リストの言動や行動の全てが、とても血の通ったものに感じられて。

何かを追い求め続けている、満たされたいと心の底から願いながらも、自分の身の内にある真実を掴み切ることだけが叶わず、
奥底に純然たる孤独を抱き続けるその様子は、まさに副題のとおり「魂の彷徨」なのだと思いました。


修道院に暮らすリストを、マリーが訪ねてくる物語のラストシーン。
互いに黒い服を身に着けるふたり。そこにはかつての華やいだ空気はなく、年月を経ての再会に、恋する想いが燃え上がることもない。
ただ穏やかに微笑んで言葉を交わしあうその中で、「喜びと、苦しみの全て」という、ポスターに綴られたあの煽り文がリストの台詞として登場するのを聞いたとき、
こらえきれない涙があふれました。

後悔などどこにもない。ただ熱く信じあって共に過ごした日々だけが、確かにそこにある。
遥か向こう、来し方をそれぞれの視点から見つめるようなふたりの表情は、どこまでも凪いでいて。
ラストシーンを徹底的に「静」のみにぐっと抑えた表現で終わらせたあの演出、大正解だったのではないかと思います。
余韻が凄まじくて、最後の数分間だけでびっくりするくらい涙が出てしまいました……。

綺羅星のような花組スターたち。魅力あふるるそれぞれの輝き

リストの他に物語の中心に在る、マリー・ショパン・ジョルジュ(トップ娘役・二番手・三番手)の3人、言わずもがななんですが、本当に!全員自分の魅力を遺憾なく発揮していて、素晴らしかったです。

まずは星風まどかちゃんのマリー・ダグー伯爵夫人。
自由を求める叫びがこめられたようなマリーの最初のソロ、歌声にボロボロ泣かされました。
窮屈でどこにも行けない、何者にもなれない自分をどうか誰か見つけ出してほしいと請い願う、救いを求める切なる心がマリーにあの批評を書かせたのだろうし、
その叫びが真実だったからこそ、記事を読んだリストはいてもたってもいられなくなり、マリーの元を強引に訪ねずにはいられなくなったのでしょう。
「フランツ、お願い、ジュネーブへ」と懇願するその指先が、リストに届くことは二度となかった。
恋人が嬉々として成功を伝えてくる手紙を読み上げながら、彼がもう決して自分の元に戻っては来ないその事実をひとり痛感し、遠くから想うことしかできないあの苦しさ。
それでいて、自らの在り方をその手で掴み取って決めていく強さを、シトワイヤン!と叫ぶ彼女は、同時に身につけてもいくのです。


マイティー(水美舞斗さん)のフレデリック・ショパンショパンが歌う場面は、どれも切なくて苦しくて仕方ありませんでした。
その穏やかな笑顔はどこか透き通っているようでさえあり……音楽を愛し、音楽に愛された存在として、真っ白い光の中に在る、そんな姿に見えました。
友人としてリストの身を心から案じ、どうして君は本当に大切なことに気づかないんだともどかしさを抱く彼は、
死を前にした場面、夢の世界でのリストとの会話で、その思いの全てを愛する友に伝え、この世から静かにいなくなります。
「君が置いていったんだ」「連れて行け」と幼き日の友人の心を、今の彼の元へそっと導いて。
事切れたその後にノクターンが流れるの、あれは本当に無理すぎる。辛くて爆泣きした。
真っ直ぐな明るさはマイティー本人の持ち味でもあると思うのですが、そこに途方もない儚さが乗ったショパンの姿は、
リストにとっての救いと苦しみを同時に表現しているようで、胸が締め付けられました。もうこうやって書いてても泣きそう。


ひとこちゃん(永久輝せあさん)のジョルジュ・サンド。本当に見事すぎた!素晴らしかったです。
男装の麗人としての存在の複雑性をありのままに体現していると思いました。
リストを愛し、別れた後もその野心を揺さぶり続け、のちに愛したショパンに寄り添い、そして彼を見送り……
ジョルジュの行動原理には、清々しいまでに己のエゴが貫かれているのがとてつもなく魅力的でした。
彼女もひとりの人間として、日々を懸命に生き、戦い抜いたのだろうなと。
その魂が持つ強靭さゆえに、彼女は若き日のリストと強烈に惹きつけ合ったのだろうし、リストが貴族たちの社会でのし上がっていく道を拓く力になれたのだろうなと思います。
女役ゆえ、歌の音域も普段とは全然異なるわけですが、さすがの歌唱力でどの歌も抜群に素敵だった!


そして、本作で退団する音くり寿ちゃんと飛龍つかさくん……!涙
パトロンとしてリストを見出したラプリュナレド伯爵夫人。
貴族階級を象徴するかのような憎らしさを存分にたたえていて、
自らの身を飾り立てるアクセサリーとしてのみ音楽家に価値を見出すその残酷さ、くり寿ちゃんは思いっきり力強く演じきっていました!
マリーの夫であるダグー伯爵を演じるつかさくん。
妻が男性の名を騙って新聞に批評を書いたことに激昂し、伯爵夫人たる自覚を持てと彼女を押さえつける彼もまた、
男性中心の身分や名誉が第一の社会に生きる存在としての威圧感がしっかりとあって。
リストに伴われ心ならずもパリに戻ってきたマリーを前にして、自嘲気味に戻ってきてほしいと胸の内を吐露する場面には、
「叶うはずもない」という言葉通りの苦しさが、ありありと滲んでいました。
劇中では二人が対になるように歌唱するシーンがあったりもして、嬉しかったと同時に、やっぱりものすごく、寂しいですよね……!!!涙



掘り下げて書けなかったけどホッティーのタールベルクもほのかちゃんのジラルダンも、あとはなこちゃんのロッシーニも好き!
貴婦人たちも大好きだしその筆頭たるあおいさんの歌声かっこよすぎるし、何よりさおたさんがいてくださって嬉しいし、
結論「花組が好き~!!!」になって暴れました。
とにかくものすごく好きなお芝居でした。刺さりまくった。生田先生、ありがとうございます!!!

歌劇座談会によると今回の作品は「ダークな感じで」*1というオーダーがあったそうですが、
重さと軽さをシーンごとにきっちりと描きわけることにより、真実性の強さを感じさせるとてつもない名作になっているのではないか!?と思います!
れいちゃんのスター性とリストのスター性が「間違いなく本物!」と感じさせられる輝きをもってとけあっていて……そもそもリスト役をれいちゃんに当てるなんて、そんなの天才の仕業としか!!!


そしてがんばって真面目な感想に終始したんですけど、あの本当に、
美が美すぎて!まじでやばいから!れいちゃんのリスト!!!(最後に堪えきれずに叫びだす様子)


ピアノを弾いているシーンのその手の大きさと美しさ。。れいちゃんがピアノを弾いてる様子が実際に見れるとかなんだこれ、夢なんか!!?
そもそも幕開けから、なに!?長椅子に身を投げ出して、気怠げに手を額に当てて「今何時だ?」って。いや、何!!??美ーーッ!!!(※注意喚起ホイッスル)
からのジョルジュとの絡みよ!?いや、濃ーーー!!?大人!?色気!?エロス!!!(ギャーーッ///)になって、もう冒頭数分で頬はほてり、心拍数は上がりまくりでしたね……。実際のとこ体温上がってた自信あるもん。
あのブロンドの髪をかきあげる仕草がちょっとうますぎるんよれいちゃん……どうやったら淑女たちが身悶えするか、さてはリストめ、わかりきってやってるな!?っていうあの感じ!!!つまり客席の我々がそれに被弾して無事に召される、本望です!!!
マリーとキャッキャウフフの追いかけっこからのバックハグでつーかまえた♡するあの真っ白衣装のところはもう、どうしたらいいかわからなかった。あの奇跡の少女漫画みたいなビジュアルだけで客席をばちぼこに萌えで殴れるトップコンビ、本当に強すぎると思う。*2激烈スウィートなおふたり。完璧すぎて、心の底から参りました。。


そういうわけで、そもそもビジュアル的にとんでもなく大勝利・どう考えても見たかったタイプのものが見れるだけでなく、贔屓の素晴らしいピアノの生演奏が拝聴でき、それで更にお芝居も最高の内容だなんて、いいんですか本当に!?生田先生ありがとうございます!?(二度目)
いやーーーこんな素敵なものが!主演作として新規に書き下ろされるなんて!!最高でしかない!嬉しい!!!バンザイッ!!!
まだ1回しか見ていないのですが、題材的に表現はどんどん深まっていくだろうし、とりあえずだいぶ序盤に見れてよかったなぁと思います。
ほぼ1ヶ月後になる後半戦で2回目を観劇するので、変化が今から楽しみです!
そしてまずは無事の大劇場完走を、今回も力いっぱい祈りたいと思います!

*1:これは大団円・ハッピーエンド打ち上げ花火!だった前作「元禄バロックロック」との対比のためかなと感じました。

*2:うまく表現できなくてこの書き方だと見た目だけに言及してる感じ!?って焦ったけどもちろんそんなことなくて、言わずもがなですが、二人きり恋に思うまま身を浸らせる甘さのお芝居が素敵です!れいまど。ただとにかく視覚のインパクトが激烈に「キラキラの少女漫画」で破壊力がやばすぎる、と言いたかった。