こたえなんていらないさ

主に刀ミュ(ミュージカル『刀剣乱舞』)を愛しながら、舞台まわりをぐるぐるしている人

3年遅れで触れたドラマ「逃げ恥」があまりにも面白かったのでその感想

あけましておめでとうございます!あなぐまです。
当ブログは基本的に観劇+推しを追いかけるにまつわるあれこれを書いているブログなんですが、2020年一発目はめちゃくちゃに珍しく、とつぜん映像作品の感想を書きます。
そのタイトルは「逃げるは恥だが役に立つ」、通称「逃げ恥」です。…いや、なんで今なん?
www.tbs.co.jp

というのも、ご存知の方も多いと思うんですが、12月28日~29日の2日にかけて、年末に一挙再放送をやってたんですよね。
その情報は特に知らずに、メイク途中の時間つぶしにつけたテレビで見始めたのがきっかけ。
そのあまりの面白さに腰を据えて見てしまい、うっかり友達との約束に遅刻しそうになったので、慌てて録画予約を入れてそのまま家を飛び出しました。
それを29日にまとめて全話見たのですが…なんかもう、言葉をなくすほど、面白かった。


「いやこんな面白いなら教えてほしかった!?わたし当時なんで見てないの!?」って本気でどこかに責任転嫁しそうになりました。
…いや、教えてほしいもなにも、当時いやでも耳に入ってくるくらいの大旋風を巻き起こしていましたよね。うん、その記憶はたしかにある!笑
放送時期がいつだったかもおぼろげだったのですが、2016年秋クールという放送時期を確認して「あ~」と納得しました。
当時のわたしは最愛のコンテンツであるミュージカル『刀剣乱舞』のとある公演に命を賭けていたので、頭と心双方に、他の一切のものが入る隙間が一ミリもなかったのです。あのいきるかしぬかみたいな精神状態だった時期に、連ドラなんてまず見られるはずがない!(そんなに?)
そもそもの前提として、連ドラを見る習慣がまったくないこともあり、「すごいな~えらい流行ってるなぁ」とぼんやり思っていた記憶のまま、話の詳細もとくに知らずにここまで来ていたのでした。

そんな状態で今見たら、あまりにも面白かったので、ちょっとびっくりしてしまって…
「いや3年も前の連ドラの感想をなんで今?しかも新年一発目に?」という気持ちにはなるのですが、せっかくなので感想を書き残してみようと思います!

◆「3年前」という古さを感じさせないストーリー

まずはここですよね…。3年って、ゆうてけっこう前だと思うんですよ。
だって、最初信じられなかったもの。劇中でみくりが見るスマホのメール受信日時が「2016/10/30」とかになってるの見て、「いや嘘では!?さすがに3年も前じゃなくない!?」ってしばらく本気にしてなかったもの。それくらいびっくりした。つい最近のドラマかと思ってた!

きっちり3年経ってなお、物語が伝えてくるその内容が、まったく古さを感じさせないんですよね。むしろ、未だに最先端を行っているのではないか?とすら思わせるほど。
唯一「ちょっと前の内容だな」って感じるポイントは、みくりのファッションくらいでしたもの。
「そうか、あの極端にトップスを前だけインするスタイルは2016年のトレンドだったか…!」って懐かしさを感じたりしました。
それ以外の面では、一切古びたポイントがなかったように思います。
強いて言えば、平匡の転職先、今ならたぶん爆速で決まるんじゃないかな?とか、それくらいか…?(優秀なITエンジニアなら2016年時点でも引く手あまただったのではと思うんですけど、どうなんでしょうね!?)


古さを感じさせない理由、それは「やりがい搾取」にみられるような、登場する言葉のキャッチーさだけによるものではなく、
この作品に通底する「相手や状況を、勝手に決めつけない。世間の『常識』を、当然のものとして捉えない」という、毅然とした態度にこそあるように思います。
その姿勢や心意気といったものが揺らぐことなく、物語をまっすぐに貫く柱になっていることが、現時点でもまだ「新しい」と感じてしまうポイントなんじゃないかなぁと。
多様性なんて言うのは簡単だけど、実践することは本当に難しいし、ざっくり言ってしまえば日本社会ってそれがものすご~く、永遠に不得手であるように思います。
そんな中で、ごく軽やかに、でも確信犯めいた打算を交えて、「みんなちがってみんないい!」って突きつけてくる逃げ恥の語り口、とことん胸がすくようでした。

◆「当たり前」に逃げ込まない、そのことの強さと苦しさ

みくりは、大学時代に彼氏に振られた時に言い放たれた「お前、小賢しいんだよ」という言葉が、ずっと棘のように刺さって抜けていません。
平匡は、年齢=彼女いない歴である自身のあり方について、みくりに言わせれば「極端に自尊感情の低い男」です。
そんな二人が、家事労働に対する正当な対価としての賃金を発生させる「契約結婚」という形を選ぶところから物語は始まりますが、時間の経過・関係性の変化に伴って揺れ動く二人の感情が、ものすごく丁寧に描かれていました。


特に秀逸だなと思ったのが、みくりが待ち望んでいたはずの平匡のプロポーズに対して「それは、好きの搾取です」と真っ向から険しい表情で反発してみせたこと。
あそこで、視聴者も平匡と同様に、冷や水を浴びせられた気持ちになった気がします。

だって、「好き同士なら、正式に婚姻関係をむすんで夫婦になることに、何ら障害などないはずだ」って、見ている誰しもが、当たり前のようにそう感じてしまってたと思うんです。二人には絶対に幸せになってほしい!と思っているからこそ。
でも、そこでみくりは自分の心の中に生まれたモヤモヤに、背中を向けることをしなかった。
これまでは給料をもらい、その対価として提供してきた自分の家事労働が、正式な結婚という形を取った瞬間に、無償で提供されて然るべきものに成り代わってしまう。
そのことへの釈然としない気持ちや苛立ちを、みくりは大好きである平匡に、ちゃんと正面からぶつけます。
その姿に、「そうだ、世間一般で当たり前と思われることがイコール幸せだなんて、いったい誰が決めた真実なの?」って、改めて脳みそを揺さぶられるような気持ちになりました。


逃げ恥のストーリーは、上記のとおりに
「『好き』という感情を肯定しつつも、生きる上での免罪符にはしない」
という、恋愛を描くドラマだとしたらかなり困難であろう道を進んでいます。(※そもそも、恋愛ドラマという枠には収まっていない作品だとは思うけれど。*1

ラスト2話では、結婚に対して新しく平匡から提唱された<共同経営責任者>という考えに基づいて、「仮に結婚をするなら、関係性が変わるなら、それ相応のあたらしい形・二人のルールを最初から作り上げねばならない」と決めて模索する二人の姿が、とても丹念に描かれていました。
みくりと平匡に関しては、正直ときめきがだいぶ目減りしたけっこうにシビアな描写続きの中、逃げずにここに2話しっかりと当て込んだこと、脚本の手腕がすごいなと思いました。
大半の視聴者が見たいであろう二人のラブラブな微笑ましい姿ではなくって、現実ありのままか?となるようなすれ違いを、丁寧にぶつけてくるのがすごい。
青空市の手伝いを始めて以降のみくりは、それまでの癒やし系そのものみたいな朗らかな笑顔ではなく、眉間にしわのよった険しい表情をたくさん見せるようになるのですが、その姿を見ていたら「いや、人生をともにするって、ほんとそういうことだよな…」と、身につまされる思いになりました。


そう、生活って、続いていくものなんだ。
好きな人と結ばれたら即幸せになってめでたしめでたし、では全然ないのだ。
忙しすぎる最中に「お願い、ご飯だけ炊いておいて!」って頼んだパートナーがそれをすっかり忘れて、あまつさえその事実を隠そうとまでしていたら、「いいです、私が買いに行きます」ってブチ切れて財布を掴んで家を出ていきそうにもなるよ。わかるよ、それが生活だよみくり!

「一緒に『暮らす』ことを続けるために、自分たちはいったい何をしたらいいのか?」って真正面から真面目にもがく二人は、本当に誠実でいじらしくて、何を大切にすべきなのか、妥協せずに選び続けました。
だからこそちゃんと、ドラマとしての嘘のないハッピーエンドにたどり着いたんだろうな、と思います。

◆ゆりちゃん。好きだ…!

もちろん主演の二人はめちゃくちゃに可愛らしくて、なんてことをしてくれるんだ!?と萌え散らかすようなシーンてんこ盛りで大好きだったのですが、それ以上にわたしがやられたのは、石田ゆり子さん演じる土屋百合(百合ちゃん)でした。
一気見しながらTwitterでひたすら「ゆりちゃん!」って叫ぶゆりちゃんbotになってしまった。それくらい好き。ゆりちゃんが好き。胸がくるしくなる。


これはたぶん2016年当時に散々言い尽くされたことだと思うんですけど、ゆりちゃんの最終話でのセリフ、めちゃくちゃに泣きました。

「自分に呪いをかけないで。そんな恐ろしい呪いからは、さっさと逃げてしまいなさい」

だーりお演じる「ザ・若くて綺麗な女」代表みたいな杏奈に対して、優しくかつ毅然とそう言い渡すゆりちゃん。
ここで語られる「呪い」=「女は若くて綺麗なうちに(のみ)価値がある」は、多分この先もずっと、この世の中からなくなることはないんだろう、と思う。
だけど、それに対して自分がどう振る舞うべきか、<選択する>自由は、確かに自分にある。


わざとらしく、おばさんのかわりに「お姉さん」と呼びかける杏奈に対して、ゆりちゃんが渡してあげた言葉は、なんというか…闇の呪いに対する光の魔法みたいなものだったんじゃないかな、と感じます。
それを聞いたあとの杏奈の表情が、視聴者にはわからないのもすごくよかった。
直前まで画面に映し出されているのは、ゆりちゃんに諭すように語りかけられて、居心地の悪そうな、むすくれた表情をしている杏奈。
本当は自分がとんでもなく恥ずかしいふるまいをしていることをわかっている、だけどその過ちをすぐに認めることなんてしたくないしできない。その様子を隠すことなくありありと顔に出すその様子が、リアルで好きでした。
すぐにしおらしく反省したような態度なんて取られても嘘っぽいもの。

杏奈はゆりちゃんに勝つつもりで乗り込んで来たのだろうけど、そこにあるのは勝負なんかじゃなくて、「自分を大切に生きなさい」ってわざわざ伝えてくれる、人生の先輩との時間だった。
きっとあの瞬間は、めちゃくちゃに悔しくて憎らしい気持ちになってるだろうけど、でもああしてゆりちゃんが言葉にして渡してくれたものは、きっと杏奈の未来をいつか変えるのだと思う。


ゆりちゃんのあの佇まいを見ていると、言葉にならない感情が溢れてきます。
どこに出しても恥ずかしくない本物のバリキャリ。当然お金に余裕があって、かっこよくて美人。周りにそう評価され続けながら、あることないことしょっちゅう言われながら、ただ自分が選んだ生き方から、きっとゆりちゃんは、逃げることだけはしなかった。
ゆりちゃんのその姿があまりにも美しいから、安っぽい言葉で勝手なことを言えなくなる。
ここでかけたい言葉は、「ゆりちゃん、幸せになってほしい」じゃない。
だってきっとゆりちゃんはずっと、自分として生きてきて、今の今まで幸せだから。そうに決まっているから。
だからたぶん、ゆりちゃんに言いたくなる言葉の正解は
「ゆりちゃん、笑顔でいてほしい」
だなと思いました。
ただ、笑顔でいてほしいです。うつくしい生き方を見せてくれて、ありがとうゆりちゃん。

◆丁寧に「呪い」が解かれていく話

逃げ恥を見て最終的に感じたのは、これでした。
登場する誰もが、過去のトラウマやこれまでの自分の人生の経験によって身についた、なにがしかの「呪い」を心のどこかに抱えて生きている。
その深刻さや強さに濃淡こそあれ、誰ともわかちあえない、自分だけの生きるつらさ、みたいなものを、全員がそっと抱えている。そしてその呪いから、みんな少しずつ解放されていく、そんな物語だったように思います。


傍から見ればなんの不満もなさそうな人だとしても、本人の心にはぽっかり空いた穴があったりする。
その事実を突きつけられたのが、酔った平匡をゆりちゃんが運転する車で送り届けるシーンでした。
助手席に座った風見が、高校時代に初めてできた彼女に関する苦い思い出を振り返りながら、「かわいそうだって自分のことしか見えてないあの子に、なんて言えばよかったんだろう」というセリフには、凄まじい強さがありました。
寝ているふりをした平匡に聞かせるつもりでわざと話した、僕は性格が悪いんですってあとになって笑いながら言っていたけど、それは半分嘘なんだろうな、と思わずにいられなかった。
「持っている」ように見える人にしかわからない生きづらさや苦しさを、わかることはできなくても、せめて想像することのできる人でありたいなと、感じさせられるシーンでした。


呪いは、どこに潜んでいるかわからないし、一度出会ってしまったら長期間苦しめられてしまうことがある、恐ろしい存在。だからなるべく出会わないよう、避けるに越したことはない。
だけどそうして運悪くかかってしまった呪いだって、誰かのたった一言で、たしかに解け去る瞬間がある。

「みくりさんのことを、小賢しい、だなんて、思ったことはありませんよ」
最終話で平匡が不思議そうに告げたその一言は、みくりの心の棘を、鮮やかに抜いた。


「逃げることは恥ではない、それで生き延びられるならそのほうが良い」
から始まるストーリーなんだけれど、
たぶん「自分」として生きることからは、どうしたって逃げられないんですよね。
ならばその分、できるだけ楽しい方がいい、幸せに近いほうがいい。
そのために必要な逃げならば、何度だって打って構わない。
大切なのは、生き延びることなのだから。


人が決めた価値じゃなくて、ただ自分が決めた信念に従って、なるべく伸びやかに生きられますように。
その中で、大切な人と、明るくて楽しい時間をできるだけたくさん過ごせますように。



見終わった後には、ただより良く生きようとする”意志”だけが明るく残る、そんなドラマでした。それこそ呪いのように作用してしまうことがある「自分らしさ」という言葉からも、するりと逃れるような不思議な軽やかさがありました。
3年遅れになったけど、見られて本当によかったです。
あとたぶん、日本全国が飽きるほど聞いてきたはずだけど、それでも「恋」はやっぱり名曲ですね!?星野源さんは才能のかたまりすぎるよね!?というか、あのエンディングに溢れる多幸感は反則だ。ロングバージョンはとくに泣けて仕方なかった。

3年遅れのとつぜんの感想(しかも長文)に、おつきあいありがとうございました!せっかくなので原作も読もうと思います!

*1:「新感覚の社会派ロールプレイング・ラブコメディ」だそうだ、なるほど…!間違いなく「ラブコメ」ですね。 https://www.tbs.co.jp/NIGEHAJI_tbs/intro/