こたえなんていらないさ

ミュージカル『刀剣乱舞』を実家とする舞台オタクのブログです。推しとご贔屓がいます。

【ネタバレあり】刀ミュ 東京心覚 ストーリーに関する感想その1

ミュージカル『刀剣乱舞』東京心覚。TDCホールにて、3月7日に無事開幕しました。

1月以来、刀ミュのある生活を送ってるな…という嬉しさにしみじみしますが、今回もまた、とんでもないものを見せられてしまった…。

構造はある程度複雑とは言えそうだけれど、でも真ん中を貫いているテーマはとてもシンプルなようにも思え、考えれば考えるほどこの世界から抜け出せなくなる。そんな感覚にさせられた作品です。
初回観劇したあと、ネタバレしないとしたら「Twitterで言えることなんてなんにもねぇよ!!!」の一言でした。
今回は初日に配信がありましたので、これまでに比べれば観劇済み・視聴済みの人数はとても多いとは思うのですが、
ネタバレは知りたくない!という人は以下ぜったいに読まないでくださいね~!!!読む場合は自己責任でお願いします~!











心覚、誇張じゃなくて開始0秒から、もう衝撃で殴られたようになってしまった。
なぜなら、開演前のSEが鳴り止み、代わりに幕開けと同時に暗闇の中に流れてきたメロディが、あろうことか、ベートーヴェンピアノソナタ第8番「悲愴」だったからです…。
本公演のど真ん中に既存クラシック曲を使ってきたことへの驚きと、あのあまりにも美しい旋律をいきなりくらって頭がフリーズしました。
双騎初演でとつぜんのG線上のアリアを使って以来、なんかもうひとつの演出手法としてクラシックを取り入れてきた感のある刀ミュ。
いや悲愴て、ちょっと一体、なにをするつもりなの…?と、もうここで怯えMAX。動揺しすぎて、思わず胸元を押さえた記憶があります。

流れ続ける悲愴のメロディの中に、いつしかがさついたノイズや電子音が混じりはじめて…
現代の日本のざわめきに満ちた雑多な日常の情景が、ステージ奥にざらりと映し出されます。
今までずっと、わたしたち観客にとっての<過去>だけを描いてきた刀ミュが、
ついに<現在>を捉えた瞬間でした。
そして、それを背後にステージ中央に立つのは、水心子正秀。

「ここが…東京。かつて、江戸だった場所」

驚いたような、少し興奮したような水心子の声。
しかしその都会の雑踏はふっと掻き消え、入れ替わりのように、時間遡行軍が次々と姿を表します。

「盗まれた時間…いや、記憶か?」

蠢く時間遡行軍の間を縫うように、上から下へとステージ上を斜めに走る、禍々しく光る真っ赤な線。
水心子を取り囲むように現れた時間遡行軍でしたが、その赤い光の線に阻まれるかのように、徐々に散り散りになって姿を消していきます。

代わりに水心子の背後に現れたのは、巨大な満月。
そしてステージ中央には、さらさらとまっすぐに流れ落ちる、砂粒の滝が…
そのさらに奥に、ひとつの人影が、ぽつりと浮かび上がります。

丈の短い着物を着て、面をつけた童のような、少女のようなその小柄な人物が姿を現したとき、流れる音楽も新たなものに切り替わり…
今度はなんと、ベートーヴェンピアノソナタ第14番「月光」が流れ出したのでした。
いやさ、ほんとさ…「やめて!!?」って叫びそうになったよね。なに考えてるの!?って。
だって曲タイトルにまず引っ張られずにはおられなかったんだけれど…その怯えが決して間違っていなかったことが、わりと早々に明かされるのでした…。


心覚、言わんとすることはすごくシンプルではないか?と感じる一方で、人に伝わるような文章で感想をまとめるのがこれまでの刀ミュで間違いなく一番ハードル高いです。。
ふだん初見時の感想はなるべくあらすじめいたことから書いているんですが、今回は難しすぎて早々に匙を投げました…!(冒頭書いて力尽きた)

1記事目では、ストーリーの構造的な部分についての整理を、とりあえずやってみようと思います。

まずはこちらから。

◆「放棄された世界」について

心覚の劇中にて描かれる時間軸は、複数存在します。しかも同じ時代に何回か繰り返して出陣している様子なので、細かく数えるとさらに複雑なことになりそう。
歴史上人物との関わりで整理すると、描かれる時間軸は、大きく下記の4つにわけられそうです。

そしてそのどれにも当てはまらず、時間軸のわからないものとして、

  • 放棄された世界

が登場します。それはこんな描写。


大きな満月に照らされた静かな世界に、ひとりふらりと姿を現す、ツルハシをかついだ桑名江。
彼が土に振り下ろすツルハシは、鋭いような鈍いような、硬い音をあたりに鳴り響かせる。
そうして土を掘り返しながら「こんこんこん 誰かいますか」と、桑名江は大地をノックするように、呼びかける歌を歌います。

明るいメロディーに乗せて「誰もいない」と何度も繰り返される歌詞、キィン、と土に刺さったツルハシが石にぶつかって立てる音、桑名江の頭上に浮かぶ巨大な満月…
心がどこまでもしんとするような、その表現の数々に、
この場所はきっと、過去に何かが起きて、誰もいなくなってしまった、荒廃した世界なのではないか…?と、初見時に直感的に感じました。
そして物語が進むにつれて、その場所が「放棄された世界」であることが、徐々に明らかになります。


では「放棄された世界」とはそもそもいったい何なのか。

心覚にて初めて刀ミュに登場する水心子正秀・源清麿は、ゲーム内イベント「特命調査・天保江戸」にて実装された刀剣男士です。

「放棄された世界、歴史改変された天保江戸の調査を行う」という任務の中で、調査にやってきた刀剣男士たちを迎え入れる、先行調査員として登場する二振りで、任務に成功すると本丸の仲間に迎えられる仕組みです。*1
今回の心覚でも、源清麿はこのゲーム内設定に触れるようなセリフとして、「僕たちはずっと、放棄された世界にいたからね。先行調査員として。だから他のみんなよりも慣れているはずなんだ、たぶん」といった内容を主に語ります。

しかし、ここからが問題。
彼は、過去の出陣で訪れた「放棄された世界」に対して、どこか引っかかる点を覚えているらしく、その疑問を主にぶつけるのです。

自分と同じく、「放棄された世界」にだって本来慣れているはずの水心子なのに、とある出陣を経験してからのち、なんだか様子がおかしい。*2
”映画のコマ送りのように時間が流れて、今自分がどこにいるのかがわからなくなる”という水心子の異変に気づいた清麿は、
「主、あの世界は…」と、正面から問いかけるのです。
しかしそれに対して、主は「知らないほうが良いこともある。…私は、そう思っています」とだけ答えるのですが…。

おそらくは、今回心覚で描かれている「放棄された世界」とは、過去のどこかの時間軸ではなく、
どこかの並行世界にありうる「今」、もしくはこの先に待ち受けている「未来」、そのいずれかじゃないのかな…?と感じました。


しかし、本来ゲーム内で描かれる「放棄された世界」とは、あくまでも過去のとある一時点であるはずのように思えます。各イベントでの実装内容がそうなっているので。
時間遡行軍との戦いに破れてしまったものなのか、歴史を守る任務にどこかの本丸が失敗した世界として、設定されていそうな趣です。
ゲーム内のイベント名も「調査」であって、そこはあくまでも一時的になにかを調べに向かう先でしかない。たとえば「奪還」を目指すような場所ではなく、もう取り戻せるものではない=放棄、というように結論づけられていると思います。
すでに失敗してしまった世界に対して調査を行うことで、今後同じ轍を踏まないように…といった意図の「特命調査」なのだろうと。


そして次に、ゲームの基本設定について考えてみたのですが、
刀剣男士はおそらく「ゲーム内における”今”=2205年より過去」にしか、本来は移動できない存在であるように思います。
なぜなら、刀剣男士の戦う敵は時間”遡行”軍だから。
時間遡行軍はその名のとおり、過去に遡って歴史改竄を試みるのであり、それを阻止するのが任務である刀剣男士たちの行き先も、当然過去だけになるはず。
つまり、刀剣男士たちが未来に移動することは恐らく想定されていない・本来はできない(なぜなら意味を成さないから)のではないか、という風に考えられます。
ゲームのリード文の最後も「審神者なる者は過去へ飛ぶ」ですしね。


それなのに、もしもその「放棄された世界」の中に、なぜか「未来」も含まれるのだとしたら…
その事実には何らかの不都合な側面があるのでは。
そして、どうやら主はその事実を知っているものの、意図をもって伏せているように見えます。

…というように考えると、心覚はこれまででいちばん、SF要素が強い作品でもあると思いました。
もちろん、時間を遡る設定がある時点でSFでしかないんだけども…なんていうか、真正面から時間軸に関する謎をぶちこんでくるところが新鮮で。
「つはものどもがゆめのあと」の頃から、並行世界を描く側面は刀ミュの中に明確に持ってきたとも感じているのですが、
そこからさらにまた大きめに一歩、奥にぐっと踏み込んできたなぁ…という印象です。


最初にまとめた通り、心覚で明確に「過去のいつ時点なのか」がわかる時間軸としては、

があり、そのすべての場所は「江戸」です。
そしてそこに、

  • 放棄された世界

が加わるわけなのですが、この「放棄された世界」もまた、他の時間軸と同じく、地理的な場所としては「東京」なのではないか?と思いました。
いつかはわからない未来、もしくはどこかの世界線の今。荒れ果てて誰もいなくなった、かつての大都市の姿なのではないかなと。

つまり、今作で描かれている場面はいずれも、時間軸こそ違えと、「東京」という都市なのだと思います。
そう、全てはタイトルにある通りなのではないか。東京心覚。

◆なぜタイトルが「東京」+「心覚」なのか

見る前はわからなくても観劇後にすっと腑に落ちることの多い、秀逸な刀ミュのタイトル付け。今回も見事でした。
心覚とは、どんな意味を持つ言葉なのか。辞書で確認してみました。

こころ-おぼえ【心覚】(名)
①思い当たること。記憶に残っていること。身に覚えがあること。心当たり。
②心に徹し覚えこんでいること。腕に覚えのあること。
③忘れないために目印をつけたり、記しておいたりすること。また、そのもの。
(精選版 日本国語大辞典より)

どれも当てはまりそうですが、今回描かれていたのは、おそらくは3つめの意味。
覚えておこうとする意志、心の現れ。
人の思いが残っていくさま、だったのではないかと思います。


そしてなぜ、物語の舞台に、東京=かつての江戸が選ばれたのか。
それはこの場所が、この日本という国の中でいちばんの「人の思いの集積地」だからではないかと思いました。
時が、物語が色濃く重ねられ続け、これまでにもっとも多くの人が日々暮らしてきた場所。
ひとつの巨大な生命体のように息づくこの都市には、無数の人々の思いこそが、そこかしこに降り積もっている。

その地に因縁を持つもの、その地に始まりを築こうとしたもの、その地を護ろうとしたもの。
心覚に登場する歴史上人物である平将門太田道灌天海僧正は、
それぞれの立場を上記のように表現することができるように思います。

すべては「思い」が鍵となり、紡がれている物語。

つまり、今回の作品のテーマ、命題は、「人の思い」について描くことではないのだろうか?と感じています。
最早それこそが、刀ミュのメインテーマといっても差し支えなさそうではあるのですが…。

と、結論みたいなものを出したところではありますが、思いについての話に突っ込んでいくとここから追加で5~6000字というボリュームが目に見えてるので、詳細は次の記事で書きますね!

◆世界観、その構造への深い踏み込み

心覚で主に描かれた内容は、刀ミュの世界観の拡張であるように感じました。
これまでの作品では、刀剣男士がそれぞれ持つ/担う個別の物語にフォーカスする側面が強かったように思うのですが、
今回は視点がぐっと後ろに大きく引かれていて、より世界の外郭を描くことに注力されているような印象があります。
刀剣男士が個々に携えている物語についてというよりは、刀剣男士という存在・彼らが守る歴史そのものについての構造が、正面から語られているような…。

うまく表現できないのですが、これまでのストーリーから見ると、一段階上の層にあるものごとが取り上げられている、といった感覚になりました。
そのぶん、より描かれる内容が概念的・抽象的になってくるため、結果として難解な作品である印象が残りやすいのかもしれません。冒頭の演出なんか特に、これまでの作品に比べると、かなり抽象度が高いですよね。


たとえば2019年上演の「葵咲本紀」は、俯瞰で捉えれば描かれている時間軸は大きくはひとつだけといえます。徳川家康が天下を統一する直前の、とある一時点。(むしろほぼ一夜の冒険物語といえそうな趣すらある。)
途中、部隊が3つに分かれて行動したりはするものの、わかりやすかったと感じます。

それと比較すると、心覚では描かれる時間軸にかなりの幅がありますし、更にそれが「いつ/どこなのか」について、なにか映像として文字情報で補足されることもないため、
「今見ているのは、ええとたぶん…ちょっと前に出てきたあの時間軸!」というふうに、受け手側が類推しながら話にしっかりついていく必要があります。
セリフとその場に出てくる登場人物から理解を組み立てていくことになるので、初見時は結構エネルギーがいるかも。

でもそうして入り乱れる時間軸によってこそ、水心子正秀が言う「コマ送りのような」バラバラの時間の流れを、追体験できる効果もあるんじゃないかと思います。
物語を進める視点の中心にはずっと水心子がいるので、一点に留まらずにぽんぽんと時間を移動していく展開は、彼の思考の道筋を辿る役割もあると感じました。
自分が今どこにいるのかわからなくなる、それはまさに水心子が抱いている感覚と同じだなって。


反対に、言葉の使い方に関しては、これまでで一番「わかりやすさ」が大事にされているようにも思えました。
話の追いかけについてストレスがかかる部分をカバーする狙いなのかなと思うんですが、
「えっそんな正面から答えみたいなことを言ってしまうの!?」とびっくりしたセリフが今回けっこう飛び出してまして。(そのあたりは次の記事で詳しく。)
そういう意味でも、今までにない手触りが残る作品だったなぁと感じてます。

ふと思ったのだけど、これまでの刀ミュでは過去のどこか一時点の時間をキーとして物語が描かれてきたけど、
今回は視点の捉え方が大きく変わって、時間ではなく東京という土地・一地点をキーとしているため、扱う時間軸が垂直方向に伸びていく物語になっている…?と言えるのかもしれません。


…と、すでに観劇・視聴済みの方はここまで読んでいて「こいつ、なんであの話しないんだ?」と思ったと思うのですが、それはまるっと次の記事にてー!
なんかちょっと手に負えなくて、あまり丁寧に書けなかったんですが、よろしければこちらからどうぞ。

anagmaram.hatenablog.com

*1:なお私はゲームをまじめに遊んでいないので、出陣はしたものの当時完走しておらず、この二振りが自分の本丸にいません…!リバイバルでダメ審神者をどうか救ってください!笑

*2:この出陣がどのタイミングのものを指すのかが3回見てもまだ判然としないんですが、平将門、の声を受け取ったタイミングのことかな…。