こたえなんていらないさ

舞台オタクの観劇感想その他もろもろブログです。

恋を読むVol.3「秒速5センチメートル」10月24日・10月25日公演を見た(いきなり第二話の感想だけ)

恋をテーマにした朗読劇シリーズ「恋を読む」の3作目となる「秒速5センチメートル」。
有楽町のヒューリックホールに、この土日で見に行ってきました。
原作は、言わずもがなの有名アニメ短編映画。
今回わたしが見たのは、21日から始まった全5組のうち、最終組となるまりおくん、まあやさん、生駒ちゃんの回でした。
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以下は、原作に照らした解釈をできているわけではなく、あくまでも舞台として今回の「恋を読む」を見た上での、いちまりおくんファンの個人的な感想、といった文章です。
そして更に!順番がめちゃくちゃなんですが、ど~しても「第二話 コスモナウト」の話をしたくてしかたないので!いきなりその話だけ書きます…!笑
(以下、感想部分はとつぜん「である・だ」調になります、読みにくくて恐縮です。)





◆「何も言うなという、強い、拒絶」

第二章の貴樹…ほんっと、見てて「こんな男の子が東京から転校して来たら、そりゃ〜好きになるに決まってるよ!」の一言だった。それに尽きる。あれは反則。
都会の空気をまとった大人びた空気、どこか他人行儀な優しさの表現が、本当に出色…!と、推しを大絶賛したい気持ちになりながら見た。。
絶対脈なんてないよ~とわかってても、あんな子が転校生としてポンと生活圏に現れたら、好きになってしまうのも無理はない。花苗の恋心、あれは本当に仕方ない、抗いようなんてないと思う。


いきなり一番言いたい部分の話をするけれど、やっぱり何よりも衝撃的だったのは、帰り道で花苗を「拒絶」するシーン。
花苗から裾をギュッと掴まれた瞬間の貴樹の表情に、本当にやられた。。
そんな顔を好きな人からされたら、こっちの心がバラバラに砕け散る…と思うような。
心臓の真ん中にいきなり冷たい手を突っ込まれた感覚のするような、それはそれは恐ろしい顔。
オペラグラス越しの視界に、見たことのないような推しの表情がくっきりと浮かんで、初見時は本当に息を飲んだ(し、毎公演やっぱりものすごい顔をしていた…)。
花苗のモノローグにある通り、それは凄まじいまでの、明確で強い「拒絶の現れ」だった。


そしてその表情は、花苗が貴樹のシャツの裾を引いた瞬間から始まっている。
いったいどうしてそんな顔を…と、胸を突かれるような気持ちになりながら考えたのだけど、
おそらく貴樹にとっては、「裾を不意に強く引かれる」というその行為そのものが、かつて明里とたった一度過ごした時間の記憶を形作る、大切な要素の一つになっているからじゃないだろうか。


「第一話 桜花抄」で、雪による電車の遅延に次ぐ遅延ののちに、ようやく駅で出会えた貴樹と明里。
待ちわびた再会の直後、明里が貴樹のコートの裾を「ギュッと掴み」、貴樹が「一歩分、彼女の方に引き寄せられる」というシーンがある。

体の向きは違えど、花苗からそれに似通った動作を受けた瞬間、貴樹の中には不意に、明里との思い出が強くこみ上げたんじゃないだろうか。
誰にも見せずに奥深くに仕舞い込んでいる、自分にとって大切にすぎるその思い出に、急に他者に割って入られたように感じてしまったから、貴樹はあれほどまでに強烈な拒絶のまなざしを、花苗に向けたのじゃないだろうか…。
だからこそ、花苗にとっても、決して告白などするまいと思わざるを得ないような圧が、そこに生まれたんじゃないだろうか。
…と、思わずこうして理由を考えたくなってしまうほど、貴樹のあの表情は恐ろしくて忘れられない。あーーー。推しのあんな顔…見たことなかったよ…!?(※わかりづらいけど、これはめちゃくちゃ喜んでいます…)
というか、あの顔が決まらなかったらこの話、成立しないも同じなのでは…?と考えると、まりおくん!流石だ!!!涙

◆「ここではない何処か」を希求する心

ユッコ、コタロウ、花苗と4人でいるシーンに、とても象徴的だと感じるのだけど、貴樹はひとりだけ、そこにいるのに、「いない」ように見える。
意識的にか無意識的にか、彼はそこにいる自分を是としておらず、心は他所に彷徨っている。
そんな第二話の貴樹はずっと、「ここではない何処か」を、ひとり探し求めているように見えた。
東京の大学を受ける、という進路を聞いた花苗は、やっぱり、と返す。「だって、どこか遠くに行きたそうだもん。…なんとなく。」と笑顔で続ける彼女は、その点に関してはとても正確に、貴樹の本質を射抜いている。


「コスモナウト」で、貴樹は明里に送れないメールをひとり手元で打ち続けている。
でも、そこにあるのはきっと、既に純粋な恋心ではなくなっているのではないか。わたしにはそんなふうに思えた。
まだ見ぬ場所をひたすらに希求する、彼の中に凝った叫びのような何かが、「送るあてのないメールを打つ癖」だったんじゃないだろうか。
届かないことはわかっていて、でも手を伸ばさずにはいられない。もっと言えば、どこに手を伸ばしたいのかもよくわからない。
でもはっきりとある「ここではなくて、何処か違うところへ行きたい」というその気持ちだけで、はるか向こうの空の上に手を目一杯に伸ばそうとしている、それが「コスモナウト」の貴樹だと思った。


遠野くんは東京からきた男の子だから、私たちとは違ってどこかシュッとしていて、洗練された空気を持っていて、爽やかさを感じさせるような大人びた優しさが似合う。
きっと花苗だけじゃなく、貴樹はまわりの同級生から、そんなふうに思われているに違いない。
それはおそらく、半分くらいは当たっているんだけど…。でも一番の芯にあるのは、貴樹は自分の周囲を取り巻く世界に興味を持てていない、ということなんだろう。
貴樹は、居場所を自分でまだ選ぶ力のない、”子供”としての不自由さに苛立ち、でもそれをストレートに外に出せるほどの積極的なわがままさもなく、ただ鬱屈した気持ちをどこかに引きずって、日々を漂っている。
花苗は「貴樹くんはすごく優しいけれど」と繰り返し述べるけれど、その優しさはおそらく、興味の無さから来るものだ。どうしても、そう思わずにはいられなかった。

◆結局、貴樹は花苗をどう思っていたのか?

…と、ここまで書いたことは、きのう1、2公演目を見たあとに浮かんだ感想を急いでまとめたものになる。
しかし、今日3、4公演目を見たときに、また違う解釈が浮かんできた。
なぜなら、まりおくんの演技がけっこうな度合いで、変わっている(ようにわたしには思えた)からだ。


今日の2公演の貴樹は、そこにいるけどいない、という雰囲気が、いくぶんか和らいでいて、より第一話に近い、あの頃の13歳の貴樹と地続きな空気感で、そこに立っているように思えた。
素朴さ、みたいなものが、冷たい優しさの代わりに少し色合いを強めているように見えて。


高台に立っている貴樹の元へ花苗がやってきて、進路調査票で紙飛行機を折る夕暮れ時のシーン。
真っ白な進路調査票を手に「わたし、明日のことも、よくわからなくって」と笑う花苗に、「きっと、誰だってそうだと思うよ」と返す貴樹。そのあとに続く「余裕ないんだー。」の半ば独り言のような声は、ごく柔らかな響きだ。
紙飛行機を飛ばした花苗の、「ロケットの打ち上げ、貴樹くんと一緒に見たいなって」という言葉に、「…うん。」と答える表情にも、さほど閉ざされたものはなくて、自然に微笑んでいるように見えた。
そのあとの「話せてよかった。」の言葉にも、社交辞令のようなものは見えなくて、思ったままにぽろっと言葉をこぼしているように感じられたのだ。


なんだか当たり前に、花苗との時間をリラックスして過ごしているようなその様子を見て、「あれ…?」となった。
貴樹は、花苗と過ごす時間に対する心地よさや、ほんのりとした好意を、ある程度自覚的に抱いていたんじゃないだろうか…?と、思えてきたのだ。
興味がないゆえの優しさで、決定的な何かを曖昧に回避しているだけ、と言い切るには、なんだかちょっと違うような…と。
「一緒に帰ろう」っていうどこか無責任な言葉も、その場の出来事の動きに流されるように、発しているだけではなかったのかもしれない?と。


しかし。それでもやはり、例の拒絶のシーンの凄まじさは変わらなかった。
「どうしたの。」の一言で、徹底的に花苗の言葉を封じ込めた貴樹は、彼女のほうを振り向くことなく、ただ静かに歩みを進めていく。
その顔に浮かんでいる、なんとも言えない諦念を感じさせるような、静かに湖の底に沈んだような表情を見つめていて、あぁ…と心に浮かんだことがあった。
たぶん、あのシーンの貴樹は、自分に失望しているんじゃないだろうか。
自分に好意を寄せてくれている女の子に対して、反射的にとはいえ、取り返しがつかないほどの拒絶を示してしまったこと。
そんなふうにしか「ここにいる」ことができないでいる自分に対して、貴樹はぼんやりとした苛立ちと諦めを感じ、じわりとひとり、失望感を抱いているのではないだろうか。


しかし、あまりにも歯がゆいけれど、それを振り払うほどの強い意志を持つ選択を、彼はとらない。
貴樹は、その自分の閉じこもり方からくる世界への接し方が、周りにどういう影響を及ぼしているのか、まだわかっていないのだと思う。
もしも、あとほんの少しだけ、目をはっきりと見開くことができたら。
諦めの代わりに、いまある目の前の出来事を真っ直ぐに見つめることができたら、もしかすると変わっていた何かが、あるかもしれない。
でも、そのほんの少しが、貴樹にはどうしようもできない。彼は、自分の後を歩きながら涙を流す少女に、かけるべき言葉を探し当てられない。
だから、花苗の隣にいるのに、貴樹は決して彼女と同じ世界にたどり着くことはなく、二人はすれ違っていってしまう。そんなふうに思った。


◆「いま、ここ」を力強く生きる花苗

花苗は、地元である島をごく自然に愛している。それを象徴するかのように、彼女が熱心に取り組んでいるのは、島を取り囲む海に出て行うサーフィンだ。
これ以上なく、しっかりといま自分のいる場所に根を下ろしている彼女と、ここではない何処かへ行きたい貴樹とでは、どうしても、結びあえる点が見つからないのも無理はない。


特に印象的だったのが、花苗の声に出さない「告白」のシーンだった。
拒絶を受けた日の別れ際、花苗は貴樹に言葉で想いを伝えることを諦めて、ジェスチャーゲームと茶化して、体の動きだけで静かに告白をする。
胸の前で腕をクロスさせた花苗は、少しの間だけ、切なげにじっと貴樹を見つめたあと、視線を静かに落として、左右に一度ずつ、ゆっくりと体を傾けてみせる。
生駒ちゃんのその姿は、なにか真摯な祈りを託すようで…その行為は、間違いなく花苗自身のためになされたものであるように思えた。
決して叶うことはない、彼を好きであるという自分のその気持ちを、愛しいものとして扱って、せめて弔ってあげようとでもするような。


「終了ー!残念でした!…じゃあまたね。バイバイ!」
ジェスチャーを受けて、何かを言いかけようとする貴樹をそう明るく遮って、花苗は笑顔さえ浮かべてみせる。


貴樹と別れたあとのモノローグで、想いと一緒に涙を零す花苗。
自分の内側に、どうしようもなく貴樹を思う気持ちがあることを、彼女は正面から認めている。
そしてそれには決して行き場がないことを知りながらも、その事実を丸ごと、受け止めようとする。
そこには、花苗のもつ、年相応の眩しいエネルギーがあるように思えた。
進路を決められないという花苗だけれど、彼女はそれでもごく自然に、自分の人生の主人公たらんとしている。
実らない恋を、そのまま飲み込んで、とりあえず前に進んでみる決意がある。
だからこそ、「コスモナウト」のラストは、半年ぶりに波の上に立てた、と告げる、明るい表情の花苗で、幕を下ろすのだと思う。
手ひどい失恋を経たあとなのに、溌剌としたあの笑顔。生駒ちゃんの花苗は、本当にエネルギッシュで、ナチュラルで、素敵だった。



いや…推しのセリフが一番少ないのが「コスモナウト」なんですけれどね、、なんといいますか、一番意外な姿が見られたのが第二話だったので…思わずそこから言語化してしまいました。
ちょっとあの在り方はたまらなかったです。あんなものを見せてくれるなんて…にくいねぇぇ…!となってしまいました…。す、好きだ~~…。これだから、推しているんだな…。になってしまった。


四人でのジェスチャーゲームのアドリブは、毎回違ってすごく楽しそうで、お客さんも笑っていて楽しかったなぁ。
貴樹のアドリブの回答がなぜか千秋楽だけ、自信満々にハリのある声で「なまはげ!」だったんだけど、花苗とユッコが「あながち間違ってない」って小声でやり取りしてたのには笑ってしまった。
そのあとのシーンでユッコにジェスチャーを強いられた花苗が「…またなまはげになっちゃう~!」ってこぼしているのも可愛かったな。


紙飛行機のところは、本当にそういうの、よくないですよ!そんなだから女の子を悲しませんだよ貴樹のばかやろう!になりながら見てました。許せん…ナチュラルボーンモテ男め…!(※貴樹って別にそういうキャラじゃないような気がするんですけれど、あのシーンに関してはあれですね。中の人の素のかっこよさに、絵面がめちゃくちゃ引き上がっていますね…)
肘をついて花苗の手元を覗き込む姿は、まるで気まぐれな猫が何かのようで、どこかちょっと気だるげな声の出し方が…「だーかーらぁー!そんなことされたら、好きになっちゃうって言ってんでしょー!?バカー!!!」だった。キレた。かっこいいわ!!!バカー!!!なった。花苗がかわいそうだ!!!



原作映画はもういつかわからないくらい前に、たぶん2回以上は見ている…んですが、話のごく細かな部分はわりと忘れてしまっており、
全体的な構成や、抱いた印象をおぼろげに掴んでいる程度、という状態だったので、逆にまっさらな気持ちで楽しめたような気がします。
…というくらい、本当に細部を忘れているのでね!
今回書いた解釈が「そんなん原作通りだろ!」だったり、反対に「全然違うわ!」な点は、いずれもどうかご勘弁くださいますと幸いです!笑
これはあくまでも舞台の感想だからっ…!(逃げ)


朗読的という表現手法や、応援している俳優さんが主人公を演じていることなど、たぶん色々理由はあると思うんですが、原作を見たときの感想とは、意外なほどにだいぶ違うものが残りました。
第一話・第三話と、全体の演出などについては、ちょっとまた別でなんとか頑張って書けたらと思います…!書けるか…!?