こたえなんていらないさ

舞台オタクの観劇感想その他もろもろブログです。

宝塚花組全国ツアー公演を見た/哀しみのコルドバ感想その①:エリオとエバを巡って

先週末に千秋楽を迎えた、花組全国ツアー「哀しみのコルドバ/Cool Beast!!」を、梅田芸術劇場神奈川県民ホールで観劇してきました。
まずは無事に全日程が終えられたことが、本当に良かった…!
新娘役トップスターに星風まどかさんを迎えたお披露目公演となった今回、どんなものが待っているのかな?ととてもワクワクしていたのですが、本当に「見てよかった~!」と叫びたくなるような素晴らしいものが見られました。やっぱり花組は最高!
まずはお芝居の「哀しみのコルドバ」感想から!(しかも字数の関係で、お芝居だけで2記事になっております。。笑)




◆初演は1985年(!)歴史ある作品との初めての出会い

繰り返し再演されてきた名作とされる今作。なんと初演は、1985年!(知ったときは本当にびっくりしました…歴史が伊達じゃなさすぎる。)
再演ですが敢えて一切の情報を入れずにマイ初日を迎えたのですが、見終わったあとはTwitterで「うわああああ!!!」しか言えなくなっていました。色々と、衝撃的すぎて。。


響き渡る鐘の音とともに暗くなる場内。そこへ流れてくる、短調のギターの旋律。
柚香さんの開演ご挨拶のアナウンスの中、ステージ中央に浮かび上がる、すらりとしたシルエット。
スポットライトにバッ!と照らし出されたのは、白地に金の豪華な刺繍の入ったマタドール姿の、眩しすぎる柚香光さん…!
張り詰めた静寂の中に零される「オ・レ…」の、とんでもないセクシーさといったら!色気といったら……のっけから息の根を止めに来られた。
いやいや、冒頭でいきなり吐息配合率80%みたいな、そんな声の出し方アリなんですか!?なって、幕開けから「あ~~これはもうだめだ~~!!!」になってしまいました。柚香さんを観に行くと、いつだって助からない。(※知ってた)


もう、ここからはじまる一連のプロローグの場面、素晴らしすぎました!
スペインを思わせる情熱的な旋律をひとりひとりが力強く踊りこなし、手拍子を響かせ、足を踏み鳴らす。迫力がものすごくあって、遠い席でも全景を目に入れたくて、思わずオペラを外して見入りました。
花組のダンスがひとかたまりの勢いになって押してくる「圧」がすごく好きだなぁと見ていていつも思うんですが、それを改めてとてもとても強く感じる場面でした!
個性がぎゅぎゅっと詰まっているのに、それが集まると不思議なくらいに、ひとつの色合いを生んでいる感じがたまらなく大好き!

そしてその真ん中で踊り続ける柚香さん。見ているこちらの目が吸い寄せられて、どうしようもなくなります。
軽やかなのに力強いステップを踏む足さばき、ぴっと真っ直ぐに決めた腕、指先に送られる鋭い視線、後ろにぐんと蹴り上げて伸ばされた左脚の美しすぎるライン。
なんであんなに素敵なのですか?と改めてぽかんとしてしまった。
そしてやっぱり、柚香さんは布と会話できる。(断言)
あれは確実に、布とおしゃべりしている。。柚香さんの手にかかれば、布まで完璧にダンスの中で「音ハメ」ができてしまう。
どうやったらそんなふうに動かせるのでしょう…?と目が点になってしまう、鮮やかに過ぎる華麗なムレータさばき。(あの赤い布は「ムレータ」と呼ぶので良いのでしょうか?)
宙に華やかに翻る、その布のシルエットまでが、どの瞬間も美しくて。
いつもオペラグラス越しに柚香さんを見るとき、もちろんお顔も見たいのだけど可能なら全身を一度に視界に収めたい!と思うのですが、今回はそこに「布の軌道もちゃんと見たい」までが加わって、いっそのことオペラ使わないほうがいいんでは!?という新たな葛藤が生まれたりしていました。
柚香さんに花形マタドールなんて……それは……大正解だよ!!!劇団ありがとう!!!(大声)


そして遅れて群舞に加わるひとこちゃんとまどかちゃん。
お二人それぞれが放つ確かな存在感と、とてつもない華やかさといったらもう!
なんていうんでしょう、柚香さんの脇を固めるお二人が揃った瞬間は、とにかく「圧倒的に華がある!」と叫びたくなるような、強すぎる絵面だったなぁとしみじみ思います。豪華絢爛!目が忙しい!!!
最後はエリオのソロ「コルドバの光と影」でプロローグは終了しますが、もうこの歌からして好きすぎた!
柚香さんの歌声で聞く「ソル・イ・ソンブラ」が良い。あまりにも良い!!!最後の「ソールイソンブーーラーーーーー!!!!!」で、柚香さん声デッカ!ってなるのも含めても~~~大好き!カッコ良!!!!!
初回を見たとき、全力で拍手をしながら軽く放心していました。なんて心を掴まれる幕開けなのだろうと。


以降、おもに主役二人の印象を軸にした感想を綴ります。

◆理知的…なのに足を踏み外していく、エリオ・サルバドール

柚香さんのエリオは、本来とても理知的で、皆の憧れの存在であるに足る、どっしりと安定した芯の通った人物なのだなと感じます。
マタドールとしての場数も踏み、輝かしい功績を残す中で、貴族が主催する夜会に招かれても萎縮することなく、堂々と落ち着いた好ましい振る舞いができる。
自分が周囲にどういう影響を与える存在なのか、その中で自分がなすべき行動はなんなのか。そういったことを時間をかけて冷静に分析して、「そうあるべき自分」を無理なく上手に構築してきた、そんな人物に見えました。
周囲の闘牛士たちから寄せられる信頼の篤さはいろんな描写からも明らかですし、そんな彼だからこそ、師匠のアントンは娘のアンフェリータを嫁がせようと決めたのでしょう。


しかしそんなエリオの冷静な姿は、8年前に突如姿を消した初恋の相手、エバシルベストルの再来で、徐々にもろく崩れ去っていきます。
エリオが招かれたリカルド・ロメロ主催の夜会で、ホステス役を務めていたエバ
コルドバからある日突然いなくなった彼女は、母の再婚のためセビリアへ引っ越し、その後財産のある相手と結婚し、裕福な階層の暮らしを手に入れています。
しかし夫を亡くしてすでに未亡人となり、今はリカルドの恋人として社交界の華となっていました。
数年越しの、思いがけない形での、初恋の相手との再会。
戸惑いながらも喜びを隠しきれず、思い出話に花を咲かせるふたり。


展開や結末を何も知らないで見ていた初回観劇の段階から、この「回想のコルドバ」の場面で、頭の中では「だめです!それはいけません!!!」というサイレンが鳴り響いていました。
エリオ、だめよそんな無邪気に喜んじゃ!!!って思わず止めに入りたくなるような。。

あの場面、最初の方のエバはまだ、「あの頃の私とは、今はもう違うのよ」というような自負心で、心に頑丈な鎧をまとっていたようで。口調も貴婦人らしいそれを貫いているし……
でもエリオは、ただ嬉しそうににこやかに、あの頃僕らは、まだ二十歳になっていなかったね、と朗らかな声で語りかける。エバの心を、知らず知らずのうちにそっとこじ開けるような、純粋な真っ直ぐさで…。
なので、悲劇に転がっていく恋の再燃、最初にスイッチを押したのは、意外にもエリオだな~って思うんですよね。。
「雲を踏むように 歩き続けたね」という歌詞で顔を見合わせて、それこそ雲を踏むように踊る軽やかな足取りで、手と手を取り合った二人の心の弾むさまといったら。

いやわかる、うんうん確かに幸せだよね、大好きだったんだよね……でも待って!なんかもう、足元にぱっくり、運命の裂け目が見えてる気がするの私だけ!?というような気持ちで、すでにハラハラしながら見ていた初回。。
回数を経るたびに、この場面の二人の無邪気さや幸福感が増してゆき、その分見ているこちらのダメージも増す、という状況でした。。幸せなのに、見てて辛い場面。。


エリオには、アンフェリータという結婚を間近に控えた婚約者がいます。
劇中の描写を見るにおそらく、アンフェリータが最初にエリオに恋をして、それを父親のアントンが取り持ってやった形のような婚約なのかなと思うのですが、
エリオはアントンの愛弟子として、また彼のもとで働くマタドールの一番の実力者としてその婚約の申し出を受け、ある種「自分の役割」としてその結婚を誠実に全うしようとしていたのかな、と想像しています。

なのできっと、そこには燃えたぎるような熱情は存在はしていない。
代わりにあるのは、年下の妹を思いやるような、すでに家族であるかのような、あたたかで落ち着いた愛情。

伯爵夫人との道ならぬ恋に突っ走っていくビセントの姿を見たアンフェリータが「ちょっといいわね」と茶化すところの「こら」と軽くたしなめるような声や、
アンフェリータにせがまれてマドリードのお祭りで二人で踊る場面のにこやかな表情からは、
エリオがアンフェリータに向ける、兄のような保護者然とした優しさを感じました。

国一番のマタドールとしての栄誉ある生活を隣で支えてくれるはずの、配偶者としては申し分のないその存在に、エリオなりにきっと安らぎを得ているのだろうし、彼女を大切にしようという真心も確実にあるはず。
ただ、そこには「恋」だけが存在しない。
だからこそ、エバとの再会で、それまでのエリオの中でとくに意識されてこなかった、ある種見知らぬ存在としての昏い恋の熱情に身を焼かれるようなもうひとりの自分が、抑えようもなく立ち上がってしまったのだろうな…と思います。

◆こんな名曲があるのか!?と驚かされた「エル・アモール」

「わかんないわよ、恋は魔性の操り芝居、って言うし!」というからかいを交えたアンフェリータのセリフから始まる、登場人物がそれぞれに切なる恋心を歌い上げる「エル・アモール」。
いや~ほんとうにたまらん。もう、こんな名曲があるのかーーー!?と客席で唸りました。
歌に登場するのは、2組の三角関係を構成する、4人の登場人物たち。
アンフェリータとエバに挟まれるエリオ、ロメロとエリオに挟まれるエバ
それぞれの心情が歌詞に織り込まれて歌い継がれていくだけでなく、サビでは立ち位置を持って明確に関係性を提示するという、シンプルなのに、これでもか!という程にビシッと決まっている演出。
あそこだけリズムが三拍子になるのも心憎い~!変拍子かっこいいよ〜。
最初、アンフェリータの歌を聞いているエリオは、終始穏やかな笑みを浮かべているのに、エバが歌い出した途端にはっと身じろぎをして、軽く眉根を寄せて煩悶するような表情に移り変わってしまう。。
「構わない あなたなら」に合わせてエリオとエバが差し出し合う手の勢いが、一回目はまだためらいがちなのに、二回目では堪えきれずというように力強くなっていて。。

とにかくドラマティックで情感に溢れており、見ているお客さんに過不足なく登場人物たちの心情を伝えられる、素晴らしい演出であり楽曲だなと思います。見ていて本当に、心を揺さぶられました。
そして最終的には「会えなくて血が滲む」と言い切ってしまうところ。もう、後戻りはできなくなっている…。
なんというんでしょう、ある意味ではとても芝居がかったナンバーとも言えるわけなのですが、それが必然!と誰もが思うような、作品の世界観を形作るような楽曲で、素晴らしいの一言です。
歌っている全員の声の個性も良すぎますし。。
柚香光/星風まどか/永久輝せあ/音くり寿 という並びの豪華さよ!なんといっても、100期歌うま娘役の歌唱力に交互に殴られる衝撃!
なんかこう、この瞬間に居合わせられて幸せだなぁ……と客席でしみじみ感じ入りました。

◆そんなつもりはないはずなのに、破滅に誘ってしまうエバシルベストル

「その身に情熱を宿す、美しいファム・ファタール」というのはロメロによるエバ評なわけですが、
いやほんと、エバ、あなたって人は。。
見ていてとにかく、本人には「そんなつもりはない」という気が、とてもする。
彼女だって別に破滅に向かいたいわけではなく。ただ真っ直ぐに、自覚した恋心に向かって、退路を断ってその身を投げ出してしまっただけ…。


エバが「私もコルドバへ行くわ」と告げたあとの、エリオの動揺が苦しいです。
かすかに身を引いて、「エバ…?」と戸惑いを隠さないその声には、明らかに「君は何を言い出すんだ?」という響きが溢れている。
それを受けたエバは、「安心して、邪魔はしないわ」って言うけどもさ!……でもさ!
そのあとに実際にコルドバに現れたエバは、思いつめた表情で、「とうとう来たわ」って言っちゃうわけですよ。。
……ねえ~~~!実際のところ、とうとう来たそのあと、どうするつもりだったのよぉ~~~!!!(地団駄)
そうは言っても、会ったらもうだめって、わかってたんでしょお!?
だけどそんな自分の身のうちで暴走する恋心を止めることが、彼女にももう、できなかったんでしょうね……。


闘牛場に現れたエバの、覚悟を決めた「エリオ…来たわ」「とうとう来たわ」から始まる、長台詞の独白。
エリオはエバの存在に心を乱されこそすれ、コルドバに戻る前に「故郷で自分を取り戻そう!」と力強く決心しているし、やっぱりそうなるつもりはないはず、だったわけです。
ああ、それなのに。不意打ちのように、思いもかけぬタイミングで現れたエバに動揺し、「今日はまだ…闘牛はやらない」という、誰が聞いてもわかりきったことを答えるしかなくなっている、追い詰められたエリオ。
そんなエリオの目の前で、心の内をすべてさらけ出すように、もはや捨て鉢になったように、まくしたてる勢いでこれまでの思いや今の自分の心情をとめどなく喋り続けるエバ
その姿には自分への嫌悪感や羞恥心、ロメロ、アンフェリータ、そしてエリオ自身へのとどまることのない罪悪感、もしもエリオに拒絶されたらという怯え……そんな全てがぐちゃぐちゃにないまぜになっていて、自分でも自分を持て余してしまってどうしたら良いのかわからない、悲痛な叫びに満ちていました。
それを聞いているエリオの、どうしようもない苦しげな葛藤。辛抱たまらずに彼女を抱き留め「もう、言葉はいらない」と、エバの身に埋もれるようにして零される、その思いつめた掠れ声。

あの瞬間、エバを心の赴くままに自らの腕に掻き抱いた瞬間、エリオは自分の心に嘘を付くことが、どうしてもできなくなってしまった。
フェリーペ大尉が言うように、冷静で、理知的である彼が、婚約者のいる身でかつての恋人のもとに我が身を投げ出すなど、本来はあり得ないことのはずなのに。
頭で考えれば駄目だとわかる全てを振り切って、彼女に向かって自分のすべてを差し出す覚悟を決めてしまう…。
そして優しくエバを見つめて、「よく、来てくれたね。」「あの頃の二人に戻ろう」と語りかけるのでした。。……ああ~~~!!!(サイレン)


まどかちゃんのエバには打算的なところがありそうで、その実まったくない気がします。
夜会を取り仕切る堂々たる大人の女のようでいて、内側には少女のようなあどけなさが、まだそのままに残っている。
「母と二人で8年間必死で駆けてきた」人生だったから、きっとエバは激変する暮らしの中で、自分の少女時代をいっぺんに封じ込めてしまったんじゃないでしょうか。
エリオに再会してからの彼女は、社交界の華として咲く未亡人というより、純粋な瞳で愛する人との未来を見つめようとする十代の少女のようでした。
成熟した女の中に、大人になりきれない夢見る少女を無意識に保ち続けているようなそのアンバランスさ、危うさみたいなものが、周囲を狂わせる。どうしても彼女を一人にはしておけないと手を差し伸べさせてしまう。
妖艶な魅力で男を誑かすというジャンルではなく、本人の意図しないところで相手を深淵に引きずり込んでしまう、ビーフェイスの破滅型ファム・ファタール……。それがまどかちゃんのエバだなぁと思いました。
そこにぶつけられるのが、あの頼れる立派な青年として成長した柚香さんの大人なエリオなので、どうしようもない悲劇が生まれる。


「もうなんか、その組み合わせだと、この話こうなるわ…」という説得力がすごくある二人だったなぁと思います。
エリオがもっといい加減でフラフラしているような男なら、この物語はそこまでの悲劇にはなりえないように思います。
そうなるはずじゃなかった、しっかりして誰もが憧れる存在による、それまでの己の否定にもなるような行為を伴うから、こんなにも苦しいのだろうなと…。



字数があたまおかしいことになりそうだったので前半記事は一旦ここまで!
エリオの最期を巡る感想と、主役おふたり以外の生徒さんの感想を、後半にてまとめます!

追記:後半記事はこちらからどうぞ。