こたえなんていらないさ

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宝塚花組全国ツアー公演を見た/哀しみのコルドバ感想その②:エリオの最期とその他の登場人物たち

花組全国ツアー「哀しみのコルドバ」感想、後半です。
エリオの最期についてと、主役ふたり以外についてまとめました。
前半記事はこちらから。




◆運命を全て引き受け、ひとりで死に飛び込む高潔な魂

ロメロとの決闘の場面で、エバと自分との隠された繋がりを知らされてからのエリオ。
あの短い時間で、彼は自分の人生の行く先を、ひとりで決心してしまいます。
噴き出すような激しい怒りはごく僅かな時間で通り過ぎ、全てを悟った諦観へとあっという間に至ってしまうその様子は、エリオが本来無鉄砲なことなどしない、ごく大人びた人間であることを表してもいるようで、見ていてとても辛い。


エバと結ばれることはできない。しかし彼女にその真実を伝え、絶望させることもできない。
そう思ったエリオが選んだ道は、マタドールとしての栄光の絶頂の最中に、自ら命を落とすことでした。

コルドバの街に朝を告げる鐘の音を聞きながら、「終わった…」と呆然と零されるその声。
「どうしてエバにこのことを言えよう」と一人つぶやくその瞳からは、一筋の涙が流れ落ちている。
それを指でくっと拭い、全てを心の奥深くに押し込めて、教会で待っているエバを穏やかな笑顔で迎えに行くエリオ。


「すべてうまくいった」「僕はね、この国の青空が好きだ」「これからはそこに、君の微笑みが加わる」
これがフラグじゃなかったら一体なんだっていうんでしょうか。。。ウォォ……
終始穏やかで優しい笑みを浮かべながら、エバの手をとり、二人を待ち受けている明るい未来を言葉にして次々に提示していくエリオ。
それだけを聞いていれば、たしかになんの心配も要らないように思える、はずなのに。
「悔いを残さない戦いができるだろう」という言葉を聞いて振り向いたエバの「エリオ…?」という、不吉な何かを予感するような、不安げな表情。
愛する相手が、自分の目の前に立って輝かしい未来を約束してくれているのに、抱きしめられたエバはなぜか涙を止めることができない。。
……いや、悲しすぎん???
闘牛場に、エバ『一緒に』行くことをことさらに強調するエリオだけど…いや待って?あなたその闘牛場で、これからなにをする気で???涙


闘牛場のマタドールたちの支度のシーンに張り詰める緊張感と、それを象徴する音楽がとても好きでした。
若々しさ溢れるアルバロの勇ましい出で立ち、そこにエリオの最後の戦いだと聞きつけてやってくるビセント。
そして満を持したように下手から登場する、威風堂々たるグランエリオの姿。
曲の効果も相まって、ここの柚香さんの「背中」の格好良さといったらもう。。たまらず、ぐっと唇を引き結んでしまった…。
あのマントはカポーテと呼ばれるもの、でしょうか。ゴージャスな金の刺繍が施された重たそうなその真紅のマントを翻し、振り返ってビセントの姿を認めた彼は、ニヤリと不敵に笑む。
誰にも告げずに、これから死ににいくと決めているあの状態で、自分と対比されるような運命を選んだビセントの姿を見つけてなお笑えるエリオの精神力は、本当に凄まじいものがあるなと思います。
「元気にやってるか?」という、頼れる兄貴分としての声掛けと、よかった、という安堵の笑顔と。
そして戦いを激励に訪れる、紳士たるリカルド・ロメロ。
「悔いのない戦いを」とはなむけの言葉を贈る彼は、半分くらいはこれから訪れる悲劇を予感していたのでは?と思わずにはいられません。


華々しいファンファーレに彩られた、熱狂渦巻く闘牛場。
目を射抜くような眩しいスポットライトに浮かび上がる、エリオの美しいシルエット。
そこにかぶさっていく、幕開けとまったく同じ、静と動が入り乱れるギターの情熱的な旋律。
ひらりと身を翻し、猛然と向かってくる牛をかわしていたはずのエリオは、ある瞬間、何かを覚悟したように、ひらりとその手からムレータを取り落とす。
轟くような蹄の音が、どんどん大きくなっていって。
ああ、これは……と思った次の瞬間、視界は真っ赤に染められて、苦悶の表情に顔を歪めたエリオが、ゆっくりと、その場に崩れ落ちていきます。
そこにかぶさる和泉しょうさんの、深い響きのモノローグ。

まるで走馬灯を見送るかのように、眉根を寄せて、でもかすかな微笑みすら湛えながら体をよじるエリオの視界を、静かにエバが横切っていく。

そしてついに、真っ白な光の中に、エリオはその肉体を永遠に横たえます。
仰け反るような体勢がほろりと解けるように、最後に取り落とされたその左手が落ちる瞬間、ティンパニの響きが非情に鳴り渡る。
「エリオーーーーーッ!!!!!!」というエバの絶叫、救命の手配をしようとする慌ただしい声。全てを悟った様子のロメロ。
何が起きたのか信じられない表情をしていたビセントは、「見届けてほしい」というエリオの願いを受け取ったかのように、胸に手を当て、静かに横たわるエリオに、礼を送ります。

……いや、つらすぎるから!!!号泣

あのあと、遺されたエバはどうしたのでしょう。。
ロメロはきっと、エバに真実を告げないで欲しいというエリオの願いを、生涯守り続けてくれるような気がします。
あれはあまりに不運に過ぎる事故だったのだと、悲嘆に暮れるエバの隣にそっと寄り添い、その先の彼女を守ってくれるような気がする。
……というか、せめてそうであってくれないと、なんかもう、救いがなさすぎるから!!!!涙


哀しみのコルドバ、痺れるほどにタイトルどおりの作品だなと思いました。
マリアとパウラ、母同士の喧嘩のシーンから、二人がきょうだいなのだということは薄々察せられたのですが、
でもエリオがあんなふうに死んでしまうとは正直想像つかなくて……嘘でしょ!!嘘だといって!!!という気持ちで、幕が下りてから本当に呆然としてしまいました。

もっと他の道はなかったのか!?と思うんですが、エリオの置かれた状況から彼が選べる道は、やっぱりあれしかなかったのか……と納得せざるを得ないような、でもやっぱり悲しすぎるような。。
愛する二人は決して結ばれることはないと世を儚んでも、エリオはエバを道連れに心中を選ぶタイプの男ではないんだよな……
でも彼女の心を「自分と同じ絶望を味合わせる」ことから守ることができたとして、エバの立場からするとあなたが死んじゃったら元も子もないのでは!!?とも思うんですが。。
それでもどうしても、彼にはあの結末しか選びようがなかった。
それが、エリオ・サルバドールという男の、高潔な魂の行き着く先だったのだな、と思います。

◆役者が揃ってる!花組の充実を感じるお芝居

1記事目ではひたすら主役二人にフォーカスを当てて書きまくってきましたが、それ以外の花組生の皆さんも、本当に最高に素敵だった!!!
以下おひとりずつの感想です!

リカルド・ロメロ/永久輝せあさん

髭をたくわえた大人の渋さに、ひとこちゃんが本来もつ華やかな色気が加わって、とてつもなく魅力的なロメロさんでした!
身分があり、誇り高い男性としてのロメロが、怒りを隠さないシーンがとても好きです。
闘牛場での逢引に行き合い、「私の予感があたったね」というその第一声から、声に滲む静かな怒り。
エバ。今日のところは、私と帰るんだ」という、有無を言わさぬその命令口調。エバを呼ばう声に明らかに怒りの感情が満ちていて、ウォォ…とゾクゾクしました。
しかし紳士たるロメロだから、エリオが置かれたどうしようもない状況を知ったあとは、とにかく理解に溢れた言動に終始します。
あれはなにも、やせ我慢で言っているのではなく、本心でそうエリオに語りかけていることがわかって。
ロメロは、自分の国の国民的英雄であるエリオのことを、本気で尊敬しているのだなぁということが伝わります。
男同士として傾ける、ある種同志のような、好敵手としての尊重がそこにはありました。
だからこそ、ロメロはエリオにその未来を、栄光を守って欲しかったのだと思います。。か、かなしい。。

アンフェリータ・ナバロ/音くり寿さん

もう健気すぎて、泣かずにはおれない!!!
ただただ、ほんっとうに可愛い。彼女が好きだという、ひまわりの花そっくりに明るくて朗らかで。
きっと彼女は幼い時分から、誰よりも目立つエリオに憧れ、恋をして、ひたむきに彼を思ってきたのでしょう。
婚約が決まったときは、夢が叶うような思いだったに違いありません。
そんな彼女に突きつけられる、残酷すぎる現実。
「辛かったでしょうね、あの人」と、エリオを慮る様子まで見せ、でもその後にこぼす「結婚したかったなぁ……!」の万感。
あんなの見せられたら、そりゃあ泣いちゃうよ!!!悲しすぎるけれど、本当に大好きなシーンでした。
そこから始まる「ひまわりの歌」の素晴らしさ。
夜明けを思わせる深い青に身を浸すアンフェリータ。その背後に浮かび上がる、コルドバの町並み。
絵としてあまりに美しく、いつも歌いだしではオペラを外して全景を堪能していました。

くり寿ちゃんの歌声には、本当に心からの情感が迸っていて、歌声で心情をこれでもかと表せる、類まれな娘役さんだなぁと感じます。
アンフェリータは、誠実で頼れるエリオのことをよく理解していたからこそ、彼が告げてきた「結婚できない」という事実の重みを、受け入れざるを得なかったのだろうなぁ。
でもそうして、せめて新しい門出を前向きに見送ろうとしていたはずなのに、愛する相手にいきなり目の前で死なれるの、つらすぎん!!?かわいそうすぎる!!!フェリーペ、あとは頼むよ……!!!

フェリーペ大尉/優波慧さん

フェリーペは物語の中でも、色んな人の秘密の打ち明け話を偶然聞いてしまうという重要な役割を担いますが(ちょっとご都合主義すぎるくらいの出くわしっぷりである笑)、
優波さんの安定感は、今作の中でもとても大きな役割を果たしていたように感じました。
柚香さんの一期下である96期で、今回の座組の中でも今の花組の中でも上級生に入りつつある優波さん。
お芝居でもちょっとした身のこなしでも、とにかく見ていて安心感があるというか。確実にこの物語を支えているなとわかる、どっしりとした屋台骨のような存在感がありました。
特にアンフェリータに語りかける、私のところへいらっしゃいませんか?の一連のセリフがとても素敵でした。
神奈川公演で見たときには、梅芸のときよりも、一歩ぐっと踏み込んだような、ただアンフェリータに優しく語りかけるだけではなくて、自分の中にある彼女への想いを込めて言葉を送り出すような力強さが生まれていて、見ていて自然と心があたたかくなるようでした。泣いた。
「私のところには、あなたが漂える、風や林があります」というあのセリフ、本当に素晴らしいですよね。。
哀しみの最中でなにもわからなくなっている人にかけるのに、あんなにぴったりな言葉はないと思う。
アンフェリータの苦しみがそっと和らげられるような、柔らかな羽根のように寄り添う在り方が、見ているこちらにとっても大きな救いでした。

ビセント・ロペス/聖乃あすかさん

ほのかちゃん、なんだかとっても背中が大きくなったというか!?男役としての新しい何かを見たような気持ちに勝手になりました。すごくかっこよかったな。
プロローグの後、闘牛士たちが歌い踊るシーンでソロで登場されますが、歌声の響きがとても深まっていたことにも驚きました。
役柄としては、ビセントにはビセントのどうしようもない葛藤があったのだと、とくに神奈川公演で感じました。
伯爵夫人との関係を咎められてエリオに食ってかかる勢いが、梅芸よりも神奈川のほうが断然強かったのです。
「俺はもう、どうでもよくなった!」の吐き捨て方を見ていて、確かにあそこまで完璧なグラン・マタドールが隣にいれば、自分なんて取るに足らない存在だと思ってしまうこともあるだろうし、その世界での行き詰まりを感じざるを得ないよな……という感覚になって。
身分ある人物の妻と恋に落ちるなど、馬鹿げた危険な振る舞いだということは、ビセントにだって嫌というほどにわかっていて、でもそれを真正面から他でもないエリオに諭されるのは、きっと我慢ならないものがあったのじゃないかな……。
身のうちに秘める「熱さ」が弾け出るような、若くてエネルギッシュなビセント、とっても魅力的でした!
ほのかちゃんはあのノーブルなお顔立ちの美しさにどうしても目が行きますが、それでいてとっても「男」っぽさをめきめきと身につけなさっているように感じて、めっちゃかっこいいです。自然と応援したくなってしまう。
そして物語的には、ビセントが無事にメリッサと一緒になれていて本当によかった。。せめてそこは、最後まで幸せな人生を送ってほしいよね。。

アントン・ナバロ/和海しょうさん

アントンはぜったいしょうさんしかあり得ない~!と思うほどにぴったりで最高の親父さんでした。
いやまず、なんといっても驚くほどの人格者。
愛弟子が、愛する娘を袖にして、初恋の人と一緒になりたいです!って言ってきて、普通許せるもんかね?!と思う。笑
そんなにものわかりのよいことあります…!?と最初はあっけにとられてもいたのですけど、でもアントンもギリギリのところで堪えているんだなっていうのが、神奈川公演で伝わってきました。(※さっきから神奈川公演の進化について触れまくってしまってますが、後半になって皆さんの芝居の熱量が上がったというのと、観劇回数を経てわたしの理解力が増したというのもあります。)
「もういいだろう、今日のところは帰りたまえ」と辞するように促すまでのセリフ、本当は激昂したいような思いもありながら、でもエリオの言うことだから並大抵の覚悟ではない、何を言っても無駄なこともわかっている、という葛藤が滲むようでした。
最後にもう一度コルドバで闘牛をやらせてほしいという、もっともなようで身勝手なエリオの願いをどうするか、アントンは決めかねていたのだと思うのですけど、
部屋を出る間際にエリオがこぼす「アンフェリータ……」の声の悲痛さに、心を決めたのかなという気がします。
エリオもまた、この状況に苦しんでいるのだと知って。。いやでも、それにしても人格者だなやっぱり、、

幕開けと幕引きそれぞれの場面で担当されているモノローグの声もほんっとうに素敵すぎて!花組にしょうさんがいてくださってよかった!と言いたくなる。
物語の額縁をびしっと決めてくださるような唯一無二の美声、毎度聞き惚れました!


さおたさんとゆめさまのマリアVSパウラの場面はいつみても迫力満点で最高すぎて笑ってしまったし、
うわ~花男!って感じのイケ散らかしてる男役さんだ!アルバロどなた!?となって高峰潤くんを覚えたし、
美羽愛ちゃんのソニアはもうほんっと~~に愛すべき妹で可愛さの塊だし、
どこを見ていても花組、好きだな~!」と思うお芝居で、幸せでした!
34人しか出演していないので(専科の美穂圭子さんを加えて35名出演でした)、下級生にもふんだんにセリフがあって、大劇場の作品とはまた違う楽しみ方があるというか!
プロローグのダンスで魅せる華やかさと、ひとりひとりがしっかりとその役を生ききる命の通ったお芝居が両立している、それが今の花組なのかなという印象があります。
これでまだ生徒さんの半分なんだもんな!と思うと、次の大劇場が楽しみで仕方ないよ~!



とても歴史ある作品の再演、どんな印象を受けるのかなぁと思っていたのですが、
不思議なほどに古さを感じない、今の柚香さんを中心とした花組で出会えて本当によかった!と心から思う作品でした。見られてよかった。
この作品の中心で輝く柚香さん、やっぱりトップスターになるべくしてなられた方なのだわ、、と一人で噛み締めてしまうほど。
でも本当にエリオの柚香さんに出会えて幸せだったなぁ。。予想の数百倍素敵でした。最高だったよ〜!!!


言いたいことがありすぎて字数が削れず、お芝居だけでまさかの2記事でしたが、後日改めてショーの感想を書きます!